クールな上司とトキメキ新婚!?ライフ
「……頑張ってくれるのはいいけど、そろそろ帰って」
「私が最後でもいいので、部長はお気遣いなくお帰りになってください」
「予定あるだろ?瀬織さんだけ頑張っても、明日のことは明日でいい時もあるんだから」
営業本部や経営企画室と行き来する部長は、遅くまで残っていた。
当然そんなことは承知で、こうして仕事を進めているのだ。
そんな私の気など知らずに、外したカフスをデスクに置き、ゆっくりと部長が近づいてくる。
彼の部屋を出てから、日に日に薄れていくのが悲しかった。
同じ香り、彼の匂い、覚えていたはずの温もり。
そのぶん、ふとしたことで思い出の一片が切り取られて浮かぶようになった。
部長の家にみたいに眺めは良くないけれど、ベランダに出たら空を見上げる。隣にいてくれたら、またパーカのフードを被せられるのかなとか、勝手に想像しては思い出に浸るのが幸せで。
「部長こそ、予定があるんじゃないですか?」
「あるよ。だから早く帰ってって言ってるんだ」
――バレンタインの夜、予定があると言われたら察しが付く。
部長はもう私と一緒にいた時間にいないんだと知った。