クールな上司とトキメキ新婚!?ライフ

 作業途中だけど上書き保存して、パソコンをシャットダウンする。
 デスクに貼っていた付箋を整理して、用が済んだものはごみ箱に捨てた。


「お先に失礼します」

 タンブラーと資料を入れたクリアファイルを持って、席を立った。
 決意のチョコレートは、出番を失ってバッグのなかで息を潜め続けている。


 スラックスのポケットに両手を入れた彼は、何も言わずに私の帰り支度を見守っている。

 見つめ合ってしまったら、動けなくなるのに。

 彼は、私を引き止めてくる。

 触れずに、言葉を発さずに。



「部長も、気をつけてお帰りくださいね」

「……」


 微笑んでもくれない。

 極めて冷静な目で、凛々しく立ち続けているだけ。



 止まっていた空気が動いて振り向くと、フロアの扉を開けたばかりの沙良さんがいた。

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