クールな上司とトキメキ新婚!?ライフ

「ごめんなさい」

「なんで結衣が謝るの?」

「だって、無かったことにした」

「俺がそう仕向けたんだけど」


 非常階段を一緒に下りながら、それぞれのフロアへと向かうまで。
 たった数分でも一緒にいると誰かに見られたら、また呼び出されてしまうのかもしれないと人目が気になる。


「……嘘、バレたらどうします?」

「バレるとしたら、結衣が千堂部長じゃなくて俺を選んでからだよ」


 私の行く手を阻むように、柏原さんが先に立って振り向いた。


 
「チョコ、渡せた?」

「直接渡す勇気がなくて、車にかけておきました。だから、たぶん……きっと」


 もし、沙良さんが顔を出さなかったら、渡していたと思う。部長は冷たい表情だったけど、気持ちを伝えるって決めていたから。

 あの時、柏原さんがいなかったら、部長のあんな瞳を見なくて済んだはず。
 だけど、彼があの時なぐさめてくれなかったら、部長が土曜出勤していると知っていたのに、チャンスを逃していたと思う。


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