【完】確信犯な彼 ≪番外編公開中≫
その後私たちの間で変わったことと言えば、
私が彼を名前で呼ぶようになったことぐらいで、
私たちの関係は、
それ以上大きく変わったりしなくて、

私はそれでも、たまに彼に逢うと、
何だかうれしくて、
毎回、くだらない会話をしたりしている。

私たちの関係が少し変わってほしいような、
今これだけ楽しいのだから変わってほしくないような、
そんな複雑な思いを秘めて私は彼の瞳を見る。
そんな時は決まって彼は小さく笑みを浮かべて、
曖昧な癖に、どこか私の気持ちを引っ張るような、
そんな言葉を投げかけてくる。

……と思うのは、
私自身と同じように、彼も私に関心があると、
そう思いたい、私の希望的観測なんだろうか?


そうして彼と出会ってから、三回目の夏が来て、
秋風が吹き始めるころに、
島に、普段ここにはやってこない人種がやってくる。

それはラフなジャケットを羽織った、
あまり人相の良くない男で、
最初は街中で、
あれこれ話を聞いて回っていたらしい。

何を聞いて回っていたかというと、
どうやら、拓海のことらしくて、

去年の私の強姦未遂の件で、
チンピラを吹っ飛ばした、という、
あたってなくもない噂話があちこちに出て、
しかも、人相に悪い男たちが、
彼のことをあちこち聞いて回るから、

狭い島のことだから、
「どうやらやくざに追われているらしい」
とか、
「東京でいろいろ悪さをして、
いられなくなって島に来たらしい」
だの、
なんだかよくわからない、
怪しい噂が出回っている。
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