【完】確信犯な彼 ≪番外編公開中≫
二人で料理を頼んで食事を始める。
前回もこんな風に待ち合わせをして、
一緒に食事をしたけど、
その時とは空気の重さが全然違う。

私は切なくて苦しい気持ちを抱えて、
そっと、ワインに口を運ぶ彼を見る。

見た目はちょっと怖く見えるかもしれない。
キツイ瞳に、鋭い目つき、薄い唇。
頬に一筋の傷跡。
なのに、笑う時は、顔をくしゃくしゃにして、
柔らかい温かい笑顔を見せる。
私は彼の笑顔が一番好きだ。

今日は、全然笑っていないのがすごく気になる。
そして、呼び出したくせに、
ほとんど話をしようとしない彼に、
しびれを切らした私が、ゆっくり言葉を掛ける。

「ねえ…………拓海……大丈夫?」
そう私が言葉を発すると、彼が私の方を見て、
少しだけ首をかしげて、緩やかな笑みを浮かべる。

「何がだ?」
その返答自体がすでに彼らしくないことに
彼は気づいているだろうか?

「こないだの人、この記事を書くために、
ここまで来たんだね……」
そう言うと、ああ、と彼が答える。
「拓海にとっては、辛い話だったんじゃないの?」
そう私が言うと、
「……まあ、それほどでもないけどな……」
そう言って苦く笑う。

そして、私たちの間に、また沈黙が落ちる。
料理の手は互いにあまり進まなくて。

前回来たときには、
「しっかり食べろよ……」
と笑いながら言ってくれた彼も、
そんな言葉を私にかけてくれることもなくて、

何だかその空間が重たくて辛くて、
そっと、私はフォークを降ろす。
そんな私に、彼が気づいて、
ふっと、一瞬寂しげに彼が笑みを浮かべた。

「ちゃんと食えよ?」
そう一言言って、彼も目の前の食事を平らげる。
それから、食後のコーヒーを頼んで、
私にデザートを勧める。

しばらくして、私たちの前にコーヒーと、
私の前にデザートが置かれて、
お店の人が立ち去ると、
そのコーヒーカップを包むように手で覆って、
彼が一口コーヒーを飲む。

「……心配させて悪かったな……」
そう彼がポツリと一言言う。

「うん、いいけど、大丈夫?」
そう尋ねると、彼が自嘲気味に口角を上げる。
「俺は大丈夫だ……が」
ふっと首を傾げて、たばこに手を伸ばす。
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