【完】確信犯な彼 ≪番外編公開中≫
「俺が下手打ったせいで、
アイツには、背中に大きな傷跡が残った。
元々、嫁にしようと思ってた女だからな、
責任とかじゃなくて、
俺が貰うつもりだったんだが……。
せめて俺じゃダメなら、他にちゃんと
全部を受け入れる男ができるまでは……」
そう言って彼の言葉は
彼の口の中に消えていく。

火をつけることすら忘れてしまったらしく、
彼は火のついてない煙草を咥えて
しばらく言葉を失う。

「……それでいいの?」
思わず私は彼に尋ねてしまう。
一瞬彼が視線を上げる。

「彼女、諦めちゃっていいの?」
そう気づけば私は彼に必死で聞いていた。

「…………」
その私の言葉に、彼は言葉を失う。
彼の様子に私は何もまた言えなくなって……。

ふっと彼が笑みを浮かべて、
火のついてなかった煙草に気づいて、
苦笑を浮かべて、
火をつけて、煙草を燻らす。

「まあ、そんな感じだ……」
そう言って彼は、小さく笑みを浮かべる。

「心配させて悪かったな……」
そう言ってチェックを手に取る。

「……私もう少しだけ、ここに残ります」
気づけばそう彼に告げていた。

「……一人で帰れるか?」
そう尋ねられて、
その言葉に無理やり笑みを浮かべた。
「はい、まだ今日は時間、
それほど遅くないし……」
そう言うと彼が小さく頷いて、

「じゃあ、またな……」
そう言って、彼は
チェックを持ったまま席を立つ。
とっさに、半分払います、
と言いそうになるけど、
彼の表情がそんな言葉を
受け入れるほど余裕がなさそうで、

私は小さく頭を下げて、
ごちそうになりました、
と言って彼の瞳をとらえようとする。

だけど、彼の瞳はどこか虚空を見つめていて、
私の言葉も私自身も、
見えているようで見えていない。

きっと私が思うように、
彼が私を思ってくれることはないんだ、
ということをはっきりと認識してしまって、
私はもう、何も言えなくて、
ため息をついて、そのまま彼を見送る。

彼の姿が消えていくのを視線で追って、
私は頬に一筋涙が落ちていくのを感じていた。
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