【完】確信犯な彼 ≪番外編公開中≫
そのまま彼はタクシーの運転手に行先を告げる。
それは私の家ではないから、
お酒に酔っぱらった頭で、
それでも違和感があって、彼の顔を見返すと、

「……そんなになっているお前を見るのは初めてだし、
そんな状態で、正直、
隼大のところに帰していいかどうかもわからない……」
そう言って、後は不機嫌そうに黙り込んでしまう。

そんなに私は酷い状態なんだろうか?
そう思いながら、車の窓で映る自分自身を見つめる。

確かに顔はむくんでいるし、
目は腫れているし、
人に見せられる顔じゃないし、
隼大が見たらびっくりしてしまうかもしれない。

「……それに俺がそんなお前を、
放っておきたくないんだよ……」
そう、ポツリと彼が呟くのを、
私は酔ったままの頭で言葉の意味も理解できずに聞いてる。

「……たく、何やってんだよ、あのオトコは……」

そう彼は一人、怒ったように呟く。

「貴志ぃ、ゴメンね?」
何となく彼が怒っているような気がして、
思わず謝ると、

「知るか……みっともない真似を俺の職場ですんなよ」
そう言って、彼はぷいっと顔をそむけて、
私とは逆側の窓から、車窓を流れる景色を見つめている、

繁華街を抜けて、
タクシーは小学校傍のアパートに着く。

「ここどこ?」
そう尋ねると、彼はしかめっ面のまま、
「俺の部屋……」
そうとだけ言って、お金を支払って、
私を車外に連れ出す。

確か貴志の家は、別にあるはずなのに。
そう思って彼の顔を見ると、

「いつまでも親元にいるのもどうかと思うからな……」
そう言って、不機嫌そうに、
それでも、私の肩を柔らかく抱いて、
そのまま彼の部屋に私を連れて行く。

私は酔ったままの、覚醒しきらない思考のまま、
彼の部屋にそのまま着いて行ってしまう。
自分がひどく危うげな状況にあるなんて、
そんなことに気づくこともなかった……。 
< 128 / 210 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop