【完】確信犯な彼 ≪番外編公開中≫
結局、それ以上、貴志が私に、
そう言ったことを言うこともなくて、
いつも通り、ぽつり、ぽつりとくだらない話をしながら、
気づけばお酒が相当入っていたせいか、
私は途中で寝てしまっていて、

気づけば、私は彼のベッドに寝かされていて、
はっと気づいて顔を上げると、
貴志は目の前のソファーに寝ている。

……迷惑かけちゃったな。
そう思いながら、しばらくベッドでぼおっとしていると、
アラームが鳴って、貴志が飛び起きる。

「うわ……と」
一瞬自分が寝慣れないソファーで寝ていたことにびっくりしたのか、
身体を起こした瞬間、ソファーから落ちそうになって、
とっさに体勢を立て直して、
それから、慌てて私の顔を見て、

「ああ……起きてたか」
そう呟く。

「昨日はゴメン……」
私がそう言うと、はぁっとため息をついて、
「……いいよ別に」
そう言ってから、何かを思いついたように小さく笑う。
「悪いと思うなら、なんか朝飯作れ」
そう言って、寝癖のついた頭をガシガシとかきまわす。

私はあわてて、服の乱れを直して、
「うん、じゃあなんか作るわ……」
そう言って、台所に立つ。
食パンがあったから、パンを焼いて、
後は目玉焼きと、冷蔵庫にあった野菜をサラダにして、
それを彼の前に出すと、
いつの間にか着替えていた彼が、
機嫌よさそうに、テーブルの前に座る。

「ふーん、ちゃんと朝飯ぐらい、
ちゃっちゃと作るんだな……」
そう言って、両手を合わせるから、
私は手に持っていたコーヒーカップを彼の前に置いて、
二人して朝食を食べる。

なんだか彼は酷く機嫌がよくて、
私は逆にふと昨日のことを思い出して、
思わず表情が曇ると、

「……とりあえず、あんまり考えんな」
そう機嫌の良かった表情を、
一瞬曇らせて、ポツリと彼が言う。

「……うん」
今考えても仕方がない。
そう思っていても、今拓海がどうしているのか、
そんなことばかりが気になってしまう。
次は拓海にいつ会うことができるのか、
例え会ったとしても、どんな会話ができるのか、
今迄みたいに気軽に話をすることができるのか、

そもそも、彼はいつまでここにいるのか。
例の彼女が、彼を求めたら
きっと拓海は彼女の元に帰ってしまう……。

ついそんなことばかり考えてしまうから、
慌てて、食欲がないのに、パンにかじりつく。

「ドレッシング、作ったのか?」
そう尋ねる貴志に、うん、とうなづいて、
「意外と料理は得意なんだけどなあ……」
無理に笑顔を浮かべると、
彼は、意外とそうみたいだな、と言って機嫌を直して笑う。
単純だな、そんな風に思いながらも、
機嫌の良さそうな貴志に少しだけ救われるような気もする。
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