【完】確信犯な彼 ≪番外編公開中≫
少しだけ緩んだ俺の表情を見逃さず、
彼女の瞳が面白そうなものを見つけた光を宿す。
「……もし欲しいものがあるなら、
やっぱり手に入れたいって私なら思っちゃうんだけどな?」
わざとらしく、ぱちぱちと長いまつ毛を揺らして瞬きをする。
「イイじゃない、ちょっとぐらいズルくたって……」
「本当に欲しいものが手に入らなくて、
後で悔やむくらいなら、私だったらキープしちゃいますけどね?」
そう言って、悪戯っぽく笑う。
「まあ、宮坂先生の性格だとちょっと無理かな?」
そう言って、最後にお茶を飲んで彼女は席を立つ。

「でも、ちょっとくらい融通効かせた方が、
人生いろいろ得だと思いますよ?
……・てか、今のままだと、誰も幸せになんてならないんだから……」
一瞬声音に切なさがこもったような気がした。

「……じゃあ、お先に」
会話の途中から食事に手がつかなくなっていた俺を置いて、
麻生先生は席を立つ。

その立ち去る背中で揺れる巻き髪を見ながら、
俺は小さくため息をつく。

「……そんなわけにもいかねぇだろうよ」
多分結衣との間は、もう確実にダメだろうと、
そんなことはわかっている。
それに自分自身の気持ちも、
先日の一件以来、ひどく揺らいでいることも分かっている。
だとしても、だからと言って、
じゃあ、別のオンナにって、そんな都合のいいように行くか。

俺はすっかり復活してしまった、
煙草の封を切って、一本煙草を引っ張り出す。
傍にあった灰皿を引き寄せて、
ゆっくりと煙草を吸う。

煙に交えて、深い深いため息をついた。


そんな話を、麻生先生とした数日後、
『穂のか』で偶然、佳代と貴志の二人に出会う。
俺が店に入った瞬間、貴志の奴が妙に緊張しているから、
俺はそっと二人と距離を置く。

カウンターに座って、日本酒を頼むと、
「いきなり日本酒は珍しいですね」
そう言って、ママさんが笑う。
俺と、貴志と、佳代の間の、
微妙な緊張感がきっとママたちには伝わっているのだろう、
マスターと二人で、しきりと俺に話かけてくれる。
ただ、視線の端に、あの二人が気になってしまって、
気づけばふとした瞬間、
つい、視線の中に入れてしまう。
からかうように佳代のおでこを突いて、
貴志は機嫌良さそうに笑う。
それに対して、一瞬戸惑いの表情をする佳代。

何か面白い話をしたのだろうか、
貴志の話に佳代が笑っている。
次の瞬間、貴志が囁いた言葉に、
また戸惑うような表情を見せる。
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