【完】確信犯な彼 ≪番外編公開中≫
目の前で、佳代がアイツと一緒にいる姿を
見てしまったせいか、
珍しく飲んだ日本酒のせいか、
いつもより、酒に酔った頭のまま、
部屋に戻ってくると、
目の前にある光景に思わず絶句する。

そこにいたのは、膝を抱えたまま座り込んで、
扉の前で眠り込んでいる佳代で、
それは普段のアイツからすると、想像できないほどの無防備な姿で、

「……何やってんだよ……」
思わず唸るような声が漏れてしまう。

一瞬どうしようか迷うけれど、
このままほっておくわけにもいかずに、

「……佳代……お前こんなところで何してんだ?」
そう言って、しゃがみこんで顔を覗きこむ。
ふと、佳代の伏せられたまつ毛に、
涙がたまっているのを見て、ズキリと胸が痛んだ。

「……え?」
声を上げて、佳代の長い睫が揺れる。
瞬きと共に、滴が頬を伝い流れるのを、
時が止まったような感覚で、吸い寄せられるように見つめてしまっていた。

慌てて頬を指先でこすり、
「……あれ、私……?」
自分の状況が分からなくて戸惑っているらしい。

「……なんでお前泣いてんだよ……」
零れた言葉は、そんな言葉で、
座り込んだ佳代の目の前で、
つい、しゃがみこんだまま話しかけてしまう。
「……泣いてなんか……」
と言った瞬間、ぽろりとまた大粒の涙が零れる。

「……貴志となんかあったのか?」
思わずそう聞いてしまうと、
佳代が、顔を横に振ろうとして、その動きを止めて
そのまま俺の視線を避けるように下を向く。

その様子に正体不明のものに対して、一瞬かっと血液が逆流するような感じを覚えた。

何か、アイツが佳代にしたんだろうか?
怒りなのか、嫉妬なのか、
正体のわからないネガティブな感情が自分を捕えている。

ふっと、小さくため息をついて、
その一瞬の激情の感情の波をやりすごす。

そのまま腰を上げ、中腰姿勢のまま、
彼女の前に手を差し出した。

「そこで座っていても仕方ねぇだろう?
コーヒーぐらい入れてやるから、寄っていけ……」

そう言うと、彼女がびっくりした顔で、
戸惑いながら俺の手をその白い指先でとらえる。
外で寝たりするから体が冷えるんだ。
ぞくり、とするような冷たい指先を捕まえて、
立ち上がれるように引っ張り上げた。

「…………」
じっと自分を見上げる
佳代の濡れた瞳の視線に、息を呑む。
それを気づかなかったふりをして、
俺は部屋のカギをまわした。


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