【完】確信犯な彼 ≪番外編公開中≫
ぼおっとしたまま家に戻ってきた。

そのまま部屋に戻ると、入り口で
くたくたと座り込んでしまう。

自分でも何が起こったのか、よくわかってなくて。
それでも、ふわふわと現実感のない、
甘いような陶酔感が抜けなくて……。

拓海に、キス……されたんだよね?
つい、勢いで、告白みたいなことをしちゃったけど……。

毎日彼と逢っていたから、怪我が治ってしまったら、
こんな風に、いつも彼と逢う事は出来なくなりそうで、
それが不安で、気づいたらあんな風に言ってしまっていた。
そうしたら……キスされて。

だとしたら、
彼は私のことが好き、なんだろうか?
そう考えると心臓がおかしくなりそうなほど苦しくなる。
でもそれはどこか甘くて切ない痛みだ。

……でも。
彼女のことはどうなんだろうか。
ふと気づいた瞬間、違う冷たい痛みが胸に走る、
彼は、彼女のことは、もう好きじゃないんだろうか……。

良く考えてみたら、
キスはされたけど、好きだとも言われてない。
私があんまり必死に告白したから、
彼も同情してくれたんだろうか……。

正直よくわからない。
頭が混乱して、軽く吐き気が起きそうだ。

私、あんな不用意なことを
言うべきじゃなかったんだろうか?


……ただ彼は同情で女の子に
キスをするような人じゃないと思う。
でも、あれだけ大事にしていた彼女のことを
中途半端なままで、放っておける人でもないと思う。

彼女をあの事件で、護ってやれなかった、
と言っていた彼の言葉を思い出す。
護れなかった、という負い目があるならば、
彼はきっと彼女という呪縛からは逃れられない気がする。
彼女が彼を解放してくれるまでは、きっと。

そして彼にとって、何が『許し』になるのかもわからない。
そもそも、護るも、護らないも関係なくて、
彼はずっと彼女だけを愛していて、
彼女だけを待っているのかもしれない。

じゃあ、私のことは……
彼はどう思っているんだろう?

さっき、
『責任もとれないのに、もっと欲しくなる』って
そう言っていた。

責任は取れないってことは、
きっと、彼女にするとか、奥さんにするとか、
そういうことができないって言う意味なんじゃないかと思う。

……小さくため息をつく。
色々考えていたら、
彼との初めてのキスに、ドキドキしていた気持ちが、
なんだか冷静になってしまった。

嫌われては……いない、かもしれない。
もしかしたら、少しは女性として、
ちょっとくらいは魅力を感じていてくれるかもしれない。

けど……。
はぁっとため息をつく。


『きっと彼は私を選ばない』

その結論に気づいてしまった……。
何故か、すごく苦しいのに、涙の一つも零れない……。
どうしたらいいのかもわからない。

彼は好きでいるのは自由だ、とそう言ったけど、
私が彼を好きだってわかったとしても、
それでも、彼は私に好きでいていい、と言ってくれるんだろうか?

……それともそんな無責任なことはできないって
そんな風に言うんだろうか……。
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