【完】確信犯な彼 ≪番外編公開中≫
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それから何度か彼から電話があったけど、
ちゃんとした答えを聞いてしまうのが怖くて、
私はかかってきた電話を全部無視した。

電話を無視したからと言って、
それ以上に、メールとかは来なくて、
実際に逢いに来ることもなくて。

でも、私は、彼を好きでいることをやめられないから、
結局は彼からの連絡を避けることで、
何とか自分の気持ちのバランスを取っている。


そんなある日、
病院に麻生先生がやってきて、
私をわざわざ呼び出した。
びっくりして、待合室に出ていくと、

「今日日勤? だったら、終わったら一緒に飲みに行かない?」
そう誘われて、私は目を丸くする。
「あの、何かありました?」
そう尋ねると、彼女はにっこり笑みを浮かべた。
「……・ううん、な~んにもない」
思わず言葉に詰まると、
「じゃあ、『穂のか』で待っているから……」
そう言って病院を出て行ってしまう。

あっけにとられた私は、彼女の背中を見つめて、
それから、同僚の看護師に
「どうしたの?」
と声を掛けられるまで、その姿をずっと目線で追っていたらしくて、
気づいて慌てて、通常の勤務に戻ったのだった。


何だろう、なんだろうと、
そのあとは、すごく気になりながらも、
何とかミスなく勤務を終えて、
私は慌てて『穂のか』に顔を出す。
すると、既にお店に来ていた彼女が、
「外、行こか」
と言って、嫣然と笑みを浮かべてさっさと先に行ってしまう。

私は慌てて、彼女の後を追う。
彼女が繁華街を抜けて、たどり着いたのは、
少し裏道のビルで、階段を地下に降りていくと、
そこは私が知らないバーで。

「こんばんわ~、マスター」
ひらひらと、彼女が手を振ると、
マスターと呼ばれた人が、軽く会釈をする。
どうやら彼女はここのなじみらしい。

「奥の方の静かな席、いいかな?」
そう言って、奥の席を指さすと、
私をコンクリート打ちっぱなしの席に連れて行った。

「この島に、こんなおしゃれな店があったんですね……」
思わず私がそう言ってしまうくらい、
そのお店は、都会のお店っぽくて、
「そうでしょ? 私結構ここにはよく飲みに来るの……」
そう言って彼女はくすくすと笑う。

彼女とカクテルを頼んで、とりあえず乾杯をして、

「……あの、何か理由があって、
私を呼び出したんですよね?」
そう尋ねると、彼女がくすりと笑った。
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