【完】確信犯な彼 ≪番外編公開中≫
そのあと、少しだけそんな風に一緒にいて、
それから、くしゃみをした私を見て、彼が小さく笑う。

「……このままだと風邪をひくな……」
そう言って、そのままそっと彼の腕の中から私を解放した。

刹那、体だけじゃなくて、
心まで寒くなったような気がしてしまう。
人間は恋をすると、どこまでも貪欲になってしまう。
──そう思った。

好きでいられるだけで幸せだと思っていたのに。

ほら、もう、抱きしめられたいと、
そんな風に思ってしまうのだから。

「……帰るぞ」
手を差し伸べてくれた彼の手を握りしめて、
そのまま彼の後をついて、家路に向かう。

帰り道、互いに話すことはあまりなくて、

だけど幸せで、少し寂しくて、
……待ち続けることが、少しだけ不安で。

でも今はこれ以上のことを望んではいけないのだと思った。
こうやって、少しずつでも、
彼との関係が深まっていけたら、
こんなに幸せなことはないのだから……。

そして、私に戻ってきたのは、
普段通りの生活で、
麻生先生には、どうなったか、と聞かれたので、
拓海から、
『待ってて欲しい』と言われたと話したら、
小さく笑って、肩をすくめた。

「まあ……。宮坂先生の性格だと、
それが限界かな」
ぽんっと、私の頭を叩いて、私の瞳を覗き込む。

「後はちゃんと、待たせたご褒美を
宮坂先生から、きちんと貰わないとね……」

もし万が一、春になっても、
彼がきっちり片を付けられないようなら、
さっさと他の男、探しなさい。

そう言って、満足げに笑っていた。

私は春が来るのが少し怖い。

きちんと彼女と逢って話をしてくる、と彼は言ったけど、
それ以降、私と普通に電話したりメールはするけど、
この間みたいに触れてきたり、
抱きしめてくれたりすることはなくて、

きっと彼なりの、『けじめ』みたいなもの
なんじゃないかって思ってはいるけど、
あの一時が、現実じゃなかったんじゃないかって、
ふとそんな風に思ってしまう。

そして、5年近く待ち続けた彼女の存在は、
彼が思っている以上に、彼にとって大きいのではないか、
もし、彼女と話をしに行って、
彼女が彼にいてほしい、ってそう言う風に言って来たら。

そうしたら彼はどうするんだろう?

彼の気持ちが、再び彼女の方に動いてしまうのではないか、
いや、そもそも、
彼の気持ちは彼女の元に未だにあるんじゃないかって。

そんな不安ばっかり頭の中に渦巻く。
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