【完】確信犯な彼 ≪番外編公開中≫
夕暮れの中、家にたどり着いた。
はぁ……と、玄関先で靴を脱ぎながら、
気づけばため息が零れる。

今彼が誰と逢っているのか、
何を話しているのか、そればっかりが気になってしまう。

気づけば私は麻生先生にメールしていた。
でもすぐ返事はなくて……。

彼が、東京から来た女性と逢っているらしい。
私、いったいどうしたらいいんだろう。
いや、彼の事を信用して、大人しく待っているべきなんだろうけど、
それが辛くて、苦しくて。

こんな苦しい思いをするくらいなら、
最初から彼のことを好きにならなければよかったのに。

そんなしようもないことまで、頭の中をぐるぐるとまわる。
コーヒーを入れて、無理に飲んだりしても、落ち着かない。
今日は、隼大は友達の家に遊びに、泊まりに行っていて、
夕食もいらない、と言っているから、
ご飯を用意する気力も起きない。

ぼおっとしたまま、自分の部屋のベッドサイドに腰掛けている。
ずっと、頭は彼の事ばかり考えていた。

苦しくて、辛くて、
なんで彼は私に連絡してくれなかったんだろう?
もしかして、私に連絡しにくい内容だったから、
私には言ってくれなかったんだろうか?

彼も彼女と逢ったら、不安定になるかもしれない
そんな彼自身の気持ちをわかってて、
それで私には言えなかったのではないか。
そんな風にすぐネガティブな考えばかり
思い浮かんでしまって……。

拓海にメールか電話をしてしまいそうで、
でも、今その彼女と一緒にいるなら、
そんな事をしたら、彼を困らせるだけかもしれない。

彼に嫌われてしまうかもしれない。

そんな気持ちで頭がいっぱいになってしまう。
呼吸が苦しくて、息が浅くしか、
吸うことも吐くこともできない。
自分の周りの空気がひどく薄いものに
なっているような気がした。

その瞬間、メールの着信音がして、
私は、縋り付くようにして、メールを確認する。
それは、麻生先生からのメールで、

「信用して待ってなさい、と言いたいけど、
やっぱり不安なんだよね?(T_T)
……穂のか、にいるって南君から返信あった。
気になるなら行って確かめてきたら?」

そう書いてあるメールを見て、
私はたまらず、そのまま家を飛び出す。

ほとんど駆け足のような状態で、
『穂のか』に向かっていた。

そこに何があるかわからないから、怖い。
怖いけど、一人でじっと待っているのはもっと辛い。

きっと、拓海は言ったことを
翻すようなことはしないはず。

…………だけど、耳に切なく、
彼女を呼んだ時の声が残っている。

あんなにやさしい声で呼んでいた女性を、
はたして、彼はもう本当に関係ないって、
そう思うことができるんだろうか……。
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