【完】確信犯な彼 ≪番外編公開中≫
「!」
トコトコとラインを割って
リレーのエリアに入り込んできたのは、
2歳位の男の子だ。
思わず俺と、彼の足が止まった。

一瞬どうしようか迷うが、
この後立て続けに他のリレーメンバーも走りこんでくる。
危ないし、盛り上がっているリレーを止めるのも無粋だ。思わず抱き上げて、

「親御さんは居ますか?」
大きな声をとっさに掛けても誰も出てこない。

「なんでまた……親はいないのか?」
子供は人見知りしないタイプなのか、
俺の方に向かって、
「ぱぱ~」と言って、
俺に抱きつくように手を伸ばしてくる。

「……先生の隠し子か?」
彼が完全に足を止めて尋ねてくる。
おかしいのか、唇が微妙に震えている。

「そんなのがいたら、嫁に殺されますよっ」
思わず言い返しながら、ちらっと後ろを見ると、
だいぶ遅れていたはずの
下位チームが追い付いてきている。

「どうするんだ? 負けたら夕食抜きだろう?」
くつくつと我慢しきれなくなったらしい、
クールで男前な相貌を崩して彼が笑う。
俺はとっさにその子を、肩に担ぎあげて肩車をする。
とっさの事に子供たちの放送の声が止まっている。

「……夕食抜きは困るんですよ。
うちの嫁、飯旨いんですよ。他所で食う気がしねぇ」
どうでもいいことを言いながら、
しっかりとその子を抑え込みながら、軽く走り始めると、
ふっと彼が笑みを浮かべて、
ちらっと後続を確認する。

「じゃあ、きっちり逃げ切らねぇとな」
うちの子も、負けず嫌いだからな……。
負けるとうるせぇんだよ。そう呟くと、

何度目かの視線が交わり、
「転ぶんじゃねぇぞ?」

そう俺に声を掛けて、彼は走り始める。
俺も同じく走り始めるけど、スピードはどうしても出ない。

軽いジョギングの速度で、残り50mを走る。
< 209 / 210 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop