【完】確信犯な彼 ≪番外編公開中≫
流石に佳代の声も静かになっている。
まあ、サイアク、この状態なら飯抜きってことはないかと笑う。
走る俺の頭の上で、子供は楽しいのかキャッキャと歓声を上げる。
彼は人がいいのか、俺と同じような速度で走って行く。

「……ったくしょうがねぇなあ……
流石に先生が飯抜きじゃあ、可哀想だろ」
彼はふっと笑みを浮かべて、足取りを緩めて、
俺と同じ速度で、二人同時ににゴールテープを切った。
わああああっと歓声が上がって、
パチパチと自然と拍手が湧いてくる。
そんな面映い雰囲気の中、
ゴールした瞬間、子供の母親らしき女性が走ってくる。

「すみません、トイレに行っている隙に……
パパに頼んでたんですけど……
もう、何やっているんだか!」

頭を下げて、自分の夫に怒りをぶつけながら、
それでも子供を抱き上げて
「勝手に邪魔しちゃダメでしょっ」と子供を叱る。
まあ、親も半分ぐらい笑いながらだから、
子供は嬉しそうにもっと笑うばかりだけどな。

クスクスと笑う観客席の様子に、周りの空気が和んでいく。

「えっと……赤先生チーム、白お父さんチーム。
同着で1位ですっ」
子供たちがわぁっと歓声を上げた。
彼が笑みを浮かべて手を伸ばしてくるので、
その手を握って、互いに健闘を称える。

「まあ、午後の競技は白が勝ちますよ」
ニヤッと笑って、やっぱり負けず嫌いだった父親は、
そのまま、案内にしたがって、競技場から出て行く。

俺は応援していた佳代の様子を確認する。
大きく両手で、◯を描く姿を見て、
小さく笑みを浮かべた。

……どうやら飯を食いそびれる可能性は
無くなったみたいだ。


午後の競技が終われば、
夜には家に戻れるだろう。
今日の夜は隼大は友達の家に泊まりに行く約束をしてる。
まあ、半分ぐらいは気遣ってくれているっぽいけどな。

で、弟の気遣いに気づいていないだろう、
うちの新妻は、美味しい晩飯以外にも、
頑張った俺に、ご褒美をくれるだろうか?

などと、しょうがないことを思いつつ、
笑顔の佳代に手を振って、
俺も競技場を後にしたのだった。



~終~
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