【完】確信犯な彼 ≪番外編公開中≫
「ここはツマミがうまいからな」
そう言って、目の前のツマミに箸をつける。
「ここは魚が旨いのがいいよ」
機嫌良さげに、目の前の焼き魚を食べる彼に、

「そういや、先生は正月は実家に戻らないの?」
そうママが尋ねると、もう一度ニヤリと笑う。

「この年になると、わざわざ親も
帰ってこいと言わねえしなあ……」

「……待っている人とかは?」
彼の言葉に咄嗟にそう尋ねてしまっていた。
先生はその言葉に、私の顔を真正面から見る。
微かに先生の瞳が揺れた気がした。
一瞬眉をしかめて、小さく嘆息を漏らす。

「…………いねぇなあ……今は」
多分うっかりと彼が呟いた言葉を、とっさに貴志が拾う。

「……今は?」
思わずその言葉に胸がズキリと痛くなる。

『今は』
ということは、前はいたんだろうか。
今は……本当にもういないのだろうか?

もしいないとしても、
……彼はその人に待っていて欲しかったんだろうか?

その先が聞きたくて仕方ないけど、
絶対に聞きたくないような気もして。

「まあ、舟に乗ってまで、帰るのが面倒だから、
実家には帰らねぇっていうことだ」
そう言って、彼は笑ってその言葉を誤魔化してしまう。

彼の言葉に、少しだけほっとして、
なのに、私は不安な気持ちは晴れないまま、
誤魔化す様にサワーに口をつける。
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