【完】確信犯な彼 ≪番外編公開中≫
くつくつと笑う声が降ってきて、
「意外と、佳代は大胆だな」
そう言ってからかう。

「……その傷……」
思わず私が尋ねてしまうと、
ちょっと彼が困った顔をする。
無骨な指先で、自らの傷をたどる。

「……これか?」
そう尋ね返してくるから、それに対して小さく頷く。

うーん、と彼が一瞬唸るようにして、
「聞きたいか?」
そう尋ねてくるから、うっと、私も言葉に詰まってしまう。
そんな私を見て、彼はふっと瞳を細める。

「言ってもいいが、聞いたら後戻りできねぇぞ?」
その物騒な言葉に一瞬、心臓がトクンと鼓動を早める。

思わずなんて答えようかと、真剣に考えてしまうと、
そんな私を見て、彼がニヤリと唇をゆがめる。

「冗談だよ、そんな顔すんな」
そう言うと、からかうように頬をつつかれる。
私がカッとして言い返そうとすると、それの気勢を削ぐように、

「まあ、そんなに大したことはねぇよ。
単に刃物を持っている奴と、喧嘩したってだけのことだ」
何でもないように彼は声を上げて笑う。
そしてそのまま、なんでもなかったように、
私の前を先導して、歩いていく。

私はどこか誤魔化されたような気がしつつも、
暗い夜空の下、彼の背中を追いかけた。

「ほら、着いたぞ」
ようやく彼に追いつくと、そこは我が家で、
私はそれ以上どうしようもなくて、
ペコリと頭を下げる。

「ありがとうございました」
そう言うと、彼はそのまま、手を振って、
さっさと背を向けてしまう。
結局傷のことも、
さっきの「穂のか」での彼の言葉の真意も聞く事が出来ず、

私は彼の背中を、曲がり角で消えるまで、
ずっと見つめていたのだった……。
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