【完】確信犯な彼 ≪番外編公開中≫
しばらくそうしていると、
家の中から電話が鳴っているのに気づいて、
私はあわてて彼から身を離して、
家に戻り電話を取る。

「ああ、佳代ちゃん?」
そう尋ねてくるのは、『穂のか』のママさんだった。

「なんかね、隼大ちゃんが今ご飯食べに来てるんだけど……」
そう言うから私は思わず子機を持ったまま、
玄関まで駆け戻ってしまう。

「あの、隼大、いました」
「どこに?」

「なんか、『穂のか』にご飯を食べに来ているみたいで……」
そう言うと、先生はいきなり吹き出す。
「ほら、言っただろう?」
先生の笑顔をみてたら、なんだか力が抜けてきてしまう。

「ああ、よかった。
さっき喧嘩して飛び出していったから……」
と思わず言うと、向こうでも笑い声がする。

「うん、『おなかすいた、姉ちゃん仕事』
って言ってたけど、昼間佳代ちゃん病院にいたって
聞いていたから、おかしいなって……」
そう言ってから、ちょっとだけ声を潜めてママが尋ねてくる。
「……どうする? 迎えに来る?」
その言葉に思わず目の前にいる先生を見てしまう。

「ちょっと待ってもらえますか?」
そう言って、また受話器を抑えて、先生に状況を説明した。
すると、彼が小さくふぅんと、鼻を鳴らして、

「それなら、俺が顔出してくるわ。
即連絡が行くってわかれば、今度そう言うことがあっても、
『穂のか』に行かなくなっちまうだろうからな……」
逃げ道はひとつでも多い方がいいだろ?
そう先生が言ってくれたので、
『穂のか』のママさんに、宮坂先生が迎えに行ってくれると話すと、

「そうね、その方がいいかも……」
そう言ってくれたので、私は電話を切って、
家で待つことになった。
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