【完】確信犯な彼 ≪番外編公開中≫
寝てしまった彼を見て、
しばらく彼の様子を見ていたけど、
なんだか却って落ち着かなくなってしまうから、
彼の部屋を見回す。

本棚にちょうど読みたかった新刊があって、
彼の横に椅子を持ってきて、座って読み始めていた。

思わず集中して読んでいると、
彼が寝返りを打つ。
ふわり、と熱っぽい指先が、私の腕を捉えた。

「!」
思わず振り返る私を見る彼の目は閉じていて、
どうやら、熱に浮かされているのか、
それとも、寝ぼけているのか、ちょっとわからない。

「……なんでお前がこんなところにいるんだよ……」
そう呟くと、ぐっと腕をつかまれて、
そのままベッドに引っ張り込まれてしまう。

「あ……」
急なことに声も出ない。
そのまま彼の強い腕が私を抱きしめていた。
少しだけ彼の汗のにおいがする。
初めての経験で、私はその匂いにも、彼の腕の中にいる状況も、
何も理解できなくなって、固まってしまう。

でも、それは本能的に嫌なことではなくて……。
緊張しているのに、どこか、心地よさを感じてしまう。
はぁ……とどこか甘い吐息が自らの唇から洩れたのに気づいた。


「…………」
そっと、彼が小さな声で誰かの名前を呼ぶ。
瞬間、心臓がぎゅっと冷たく締め付けられるような気がした。
彼は再びその名前を囁いて、愛おしげに私に頬を寄せる。

「…………ゆい…………」
そう……彼は、女の子の名前を呼んだ。

私でない人の名前を、
切なくいとおしげに呼ぶ彼の声に、
心臓が壊れるほど締め付けられて、
私はますます声を失う。
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