【完】確信犯な彼 ≪番外編公開中≫
パタン、という音が聞こえて、
熱にうなされている状態から、
ふと目を開ける。

…………今まで見ていたのは夢か。
そう思ってため息をつく。

人が弱っているときに、夢魔はやってきて人の心を乱す。
今まで抱いていたと思っていた、ぬくもりを失って、
俺は目を閉じて自らの額に手を置く。

ふと、指先に残る香りに気づいて、鼻先に指先を寄せる。
それは……結衣のそれとは違っていて、

はっとして、周りを見回す。
そこには枕元に置かれたイオン飲料に、コップ。
先ほどまで看病をしてくれていた事がわかる
タオルや、自分に乗せられている氷嚢。

まあ、寝返りを打ったせいで、周りに散らばってはいるが。

ゆっくりと記憶を取り戻していく。
看病をしてくれていたのは、佳代だ。
なのに、夢の中で結衣が傍に居た気がして、
ベッドに引っ張り込んで抱き寄せた気がする。

「やばいな……」
ため息が漏れる。

指先で触れた涙も、あれも佳代のモノだったのかと思う。
先ほどまでの懐かしく切ない気持ちとは違う何かが
……心をかき乱す。

「……なんでアイツはすぐ泣くんだ……」
そのくせ泣いているとは、絶対に認めたがらない。
「……面倒くせぇオンナだな……」
そう言って、ため息をつく。

「……面倒くせぇのは、俺の方か……」
ぐしゃりと、汗で湿った髪をかきあげる。

「……何やってんだか…………」
漏れるのは、熱まじりのため息ばかりだ。
抱きしめる以外のことはしてねぇと思うが、
と一人、記憶をたどり苦笑する。
熱で弱っててよかったなと、一瞬思う。
熱で弱ってなかったら、
間違いなく、それ以上のことをしていただろう自分を想像して、
思わず、佳代のすんなりとした清廉な肢体を思い出して赤面する。

「最近、シテないからな……」
ボソリと言葉に漏れる。

結局は、どこまで現実で、どこまでが夢か……。
何を言って、何をしたのか、
確認するすべもなく、気づけば緩やかに意識が落ちていく。
ちゃんと治ったら、佳代に、礼と詫びをしねぇとな……。
最後に、佳代の拗ねた顔と、笑顔を思い出して、
それでも、小さく笑みが浮んでいた。
< 49 / 210 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop