【完】確信犯な彼 ≪番外編公開中≫
千尋は、言葉少なにうなづくだけで、
後は私の話をひたすら聞いてくれる。

私は自分でもよくわからない気持ちを抱えたまま、
宮坂先生の話をしていた。

出会ったきっかけから、
何度も助けてもらったこと、
隼大のこと、それから麻生先生のこと。

……それから今日の話。
彼が切なげに、熱に浮かされながら呼んだ女性の名前のこと。

そんなことを冷静になりきれない頭のまま、
順序もぐちゃぐちゃに話していた。

すると小さく千尋がため息をついて、
困ったような顔をして、小さく唇をきゅっと噛みしめて、
私の顔を覗き込むように一言尋ねた。

「……佳代、その人のことが好きになっちゃったんだ?」

その言葉に私は絶句する。
何か言い返したいのに、言葉が出ない。
そんな私を見て、千尋がくすくすと笑う。

「自分でわかってなかったの?」
そう言うから、私は呆然としたまま頷く。
ふぅ、と千尋がもう一度ため息をつく。

「……ホント鈍感なんだから……」
指先で自分の髪を弄びながら、彼女がそう呟く。

「で、どうしたいの?」
そう彼女が尋ねるから、私は意味が分からなくて言葉に詰まる。
「……どうしたいって?」
彼女がわざとらしく大きなため息をついた。

私を見て、首をカクリ、と落胆したように下げて、
もう一度私の顔を見て笑う。

「とりあえず、彼は今は付き合っている人はいない」
そう言うことよね? 彼女がそう確認する。
私は確信のないまま、その言葉にうなづく。
こないだ、貴志がそんなことを聞いていたから、多分そう。
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