【完】確信犯な彼 ≪番外編公開中≫
食事が終わって、彼と共に店を出る。

「ご馳走様でした」
そう言って頭を下げると、
「いや、佳代は命の恩人だからな」
そう言って冗談めかして笑う。

「でも、本当に気を付けてくださいよ。
一人暮らしなんですから、
なんかあったら、すぐに連絡くださいね」
そう私が真面目に言うと、
くつくつと笑って、わかった、わかった、と答えた。

「いざとなったら、お前のところに、
一番に連絡するから、心配するな……」
さっきの続きのようにして言うから、
私は、その言葉が半分冗談だとわかっているのに、
それでも、どこか、その言葉に特別なものを探してしまう。

そのまま二人で、夜の街をゆっくりと一緒に歩く。
色々聞きたいことも、知りたいこともいっぱいあるけれど、
今はこうやって隣で一緒に歩けることが嬉しくて、

ただ、一緒に街を歩けるだけでも
ふわふわと、心が浮き立ってしまうくらい、
嬉しいなんてそんな事、経験したことなかったから。

……なんかよくわからないけど、
恋をするっていうのはこういうことなんだって

くすぐったくて幸せな気持ちになる。

熱気のこもった空気の中、
街灯に深い緑の街路樹が照らされている。
仄かにかいた汗に、海風が少しだけ涼しい。

ふわっと吹いた風が、
私のワンピースの裾を揺らす。
一陣の風に、下ろしたロングヘアが流れる。
それを指先で抑え込むようにすると、

一瞬彼が、立ち止まって、目を細めるように
私に視線を送ったような気がした。

その柔らかくて優しい視線だけで、
胸がきゅんと締め付けられる。

仄かに顔を染めた私を見て、
ふっと彼が笑って、先を歩き始める。
< 59 / 210 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop