【完】確信犯な彼 ≪番外編公開中≫
言葉はそんなに多くないけど、
たまに交わす言葉が嬉しくて、
小さな彼のしぐさにすら、ドキドキしてしまう。

彼の横に並んで見上げる、彼の笑顔とか、
遠くを見つめる様子とか、
ふっと一瞬私に投げかける視線とか、
どれもが私の鼓動を甘く切なく揺らす。

手を繋ぐわけでもなく、
ただ二人で並んで歩くだけなのに、
思わず胸が甘い鼓動が止まらなくて、

高校の頃、男の子に誘われて、
デートみたいなことをしたことはあったけど、
こんな風にドキドキして男性と歩くことはなかった気がする。

なんで彼なんだろう、と改めてそう思う。

彼には多分、昔、大事な人がいて、
今もその人のことが好きなんだと思う。
もしかしたら、何かきっかけがあれば、
その人と仲直りするかもしれない。

彼にとってはその方が幸せなこと。
だから、本当は彼の幸せを祈るなら、
大事な人と一緒に彼がいられることを
望むべきなのかもしれない。

でも、素直にそう願えない私は、
あまりいい子ではない。

恋は盲目、と聞いたことがあるけれど、
人を好きになると、
理性的な判断ができなくなってしまうのかもしれない。

それでも今、自分で気づいたばかりの感情を
私は手放したくなくて、
小さなため息をついて、ゆっくりと道を歩く。
あと少し歩けば、もう、うちに着いてしまう。

それが惜しくて……。
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