【完】確信犯な彼 ≪番外編公開中≫
その後、改まって彼と逢う機会はなかなかなくて、
私は半端に気づいてしまった自分の気持ちを持て余しつつ、
それでも一年目の看護師生活は忙しくて、
必死に毎日を送っている間に、
秋はどんどん進んでいた。

たまに、どうしても顔を見たいな、と思うときには、
夕食時に『穂のか』に顔を出すと、
結構な確率で彼に逢うことができた。

『穂のか』の上のマンションに住んでいる彼は、
家で食事をしない時は、
ここで夕食を食べることにしているらしく、
そうした時は、少しだけ彼と会話をすることもできた。
もちろん、そう言うときは、
隼大を一人で家に置いていくわけにいかないから、
一緒に連れて行くことが多い。
そうすると結局私より、隼大が一生懸命、
彼と話をしていることが多くて、

結局私は彼とはほとんど話ができなかったりするのだけど、
それでも、隼大と話している彼の姿を見れることは、
なんだか、とっても嬉しくて、

それに彼がほとんどの場合は一人で来ていて、
誰かと一緒っていう事がないことに、
実は、ほっとしている。

「せんせ、正月にも戻らないの?」
そう隼大が大きな声を上げる。
「いや、今年は正月だけは帰ろうかと思っているけどな?」
そう宮坂先生が答える。
「それじゃあ、年末までこっちにいるの?」
私がそう尋ねると、ああ、とうなづいて、
つまみを箸で突く。

「ちゃんと帰らなくていいんですか?」
そう私が尋ねると、
「あっち、寒ぃからなあ……」
そう言って、悪戯めかして目を細めて笑う。
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