【完】確信犯な彼 ≪番外編公開中≫
結局、彼は向こうに待っている女性がいるんだろうか、
それとも今はもう待ってはいないんだろうか。

前、熱で浮かされた時に呼んでいたあの人は誰なんだろう。
そして、彼は今彼女のことをどう思っていて、
彼女は彼のことをどう思っているんだろう。

不安で、尋ねたくて仕方ないのに、
やっぱりそんなことを聞くことはできなくて、
それに何より、
尋ねてしまって、決定的な答えをもらってしまうことが怖くて、

「実家に帰ったら、そっちに彼女とか待ってないの?」
それでも勇気を振り絞って尋ねると、

「そんなのがいたら、さっさと帰るさ」
そう彼がチラリとこちらを見て笑う。
その一瞬の視線が何か少しだけ意味ありげで、
私はそんな彼の瞳の色ですら、
見とれて、胸の鼓動が高まってしまう。

いつの間にこんなに彼が
私の気持ちの中に入り込んでしまったのか、
自分でもよくわからなくなることがある。

それでも、彼のことが気になってしまうことは
もう、否定もできなくなっていた。
でも、それを素直に表現する方法がわからなくて、
気づけば、いつも生意気な口のきき方をしたり、
突っかかるような言い方をしては、
帰宅後、落ち込んだりもした。

そんな年末の押し迫ったある日、
私は貴志に呼び出されて、
『穂のか』で待ち合わせをする。
隼大はちょうど友達の家に泊まりに行かせてもらっているから、
私はのんびりと飲むつもりで、
『穂のか』に行くと、すでに店内がにぎやかで。

「ああ、佳代ちゃん、
今日忘年会が入っているから、
ちょっと奥が煩いわよ?」
そう言うママさんに思わず中をのぞくと、
どうやら小学校の先生たちが何人か集まっている。
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