【完】確信犯な彼 ≪番外編公開中≫
声を上げようとした瞬間、
煙草臭い手が、私の唇を覆う。

思わず吐き気がしそうになって、
身体を父親から逃れるように折り曲げる。

饐えた匂いのする部屋に引っ張り上げられて、
私は自分がどうなっているのかもわからないまま、
次の瞬間、汚れた床に投げ出すようにして、押し倒された。

怖い、そう思って、体がすくむ。
四肢を抑え込まれた状態で
饐えた部屋の匂いと、酒臭い息が自分を取り囲んでいて、
思わずぎゅっと目をつぶる。

気持ち悪い、嫌だ。
そう叫ぼうとした瞬間に、
私の唇をふさぐ男の指が口に入ってきて、
とっさにキツク噛むと、

「いてえな!!」
そう怒鳴って、指先を私の唇から離す。
次の瞬間、両頬が焼けるような熱を感じる。

パンパン。というような破裂音を同時に聞いて、
一瞬脳震盪を起こしたように意識がくらりと遠ざかる。

次の瞬間、耳がうわんうわんと鳴るような感覚があって、
その父親に平手打ちをされたということに気づいた。

振るわれたことのない暴力に、
意識が一瞬、かい離しかかって、
呆然と、してしまう。

「そうそう、おとなしくしてりゃあ、いいんだ……」
そう言って男が笑う。

「弟が弟なら、姉も姉だな……」
そう言って血のにじんだ指先を私の目の前にちらつかせる。

「こりゃ、やっぱりお前に、治療費を払ってもらわないとな……」

そう言って、床に落ちていた、
汚れたタオルのようなものを口に突っ込まれた。
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