【完】確信犯な彼 ≪番外編公開中≫
安堵のせいだろうか、
よみがえった恐怖感に
カタカタと体が震えてきて、涙が一気に浮かぶ。
一瞬彼の方に指先を伸ばすけど、
男の人自体がこわくなっているみたいで、
それ以上に動くことができない。

躊躇いがちに、そっと先生が指先を伸ばして、
私の二の腕に触れて、とんとん、と撫ぜるように軽く叩く。

「もう、大丈夫だから、安心しろよ……」
そう言う穏やかで、優しい彼の声を聞いて、
私は思わず彼の腕に縋り付いてしまう。

よしよしと、頭を撫ぜてもらって、
私は一気に涙が零れて、しゃくりあげてしまった。

「……怖かった…………」
あのままあの男のモノになっていたら、
私はどうなってしまったんだろうと、
ふと上げた視線の先に転がる、
局部を外に出したまま、
意識を失っている間抜けな男の姿を見て、
私は改めて恐怖に震える。

「……警察に電話してもいいか?」
そう尋ねてくる彼の言葉に、
一瞬考えてから、小さく頷く。

彼が携帯電話で警察に電話する間も、
私を安心させるように、とんとんと一定の心地よいリズムで、
背中を慰めるように叩き続ける。

「はい……わかりました。
救急車も用意してください。……お願いします」

そう言って電話を切ると、
そっと、指先をゆっくりと安心させるように
私の目の前に見せてから、ゆるり、と頬を撫ぜる。
< 84 / 210 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop