【完】確信犯な彼 ≪番外編公開中≫
それだけなのに、ズキリとするほど胸が痛くて、
次の瞬間、彼が私を支えていた手をそっと離して、
くるりと背を向ける。

半月を見上げて、

「……久しぶりに酔ったな……」
そう言って、彼はその姿勢のまま、
自らの額に掌を乗せて、
はぁっとため息をひとつ漏らす。

「珍しいですね。そんなに酔ったんですか?」
私は熱に火照った身体を吹き抜ける、
まだ冷たい春の風が心地いいと思いながら、
そう彼に尋ねる。

「……ああ、予想外にな……」
そう言って彼はくつくつと笑う。

小さな声で、
「何に酔ったんだかわかんねぇけどな……」
ボソリと言って。

ふっと振り返って、小さく笑みを浮かべる。
そのままその手を伸ばして、
くしゃり、と私の頭を撫ぜて、

「……佳代、明日は日勤だって言ってたな」
そう言って、
公園の外にゆっくりと足を進めていく。

「足元が暗いから、転ぶなよ?」
くつくつとからかうように笑うから、
さっきまでのドキドキがどこか中途半端で切なくて。

「……拓海は、明日は仕事なの?」
思わずそう尋ねてしまう。
かぁっと火照る体を意志で抑え込んで、
彼の顔を見上げると、

「ああ、明日は俺は登校する予定だ」
そう言って、何事もなかったように、
私の呼び捨てで呼んだ名前にも、反応してくれなくて。
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