マイノリティーな彼との恋愛法
チラリと神宮寺くんを見上げる。
彼はただ真っ直ぐ前を見ているだけ。マスクもしているし表情は読み取れないけど、おそらくいつも通りの無感情だろう。
目も合わないなんて、と視線を戻そうとした時だった。
左手の指先に、ふわっと触れる誰かの指。
その指は、少しだけ私の指先に触れたあと、ゆっくりと手の甲を撫でた。
━━━━━え!?
なにがなんだか分からないうちに、指を絡められて頭はパニックに陥った。
ついでに沈静化していたはずの私の胸の鼓動がとんでもないことになってしまった。
何してるの、神宮寺くん?
目を丸くして、間違ってないか確認するように彼を見つめる。
だって左隣にいるのは紛れもなく神宮寺くんで、それはすなわちこの指を絡ませてくる相手は彼だと証明しているようなものだ。
体全体が心臓になったみたいに、ドキドキと脈打った。
彼は相変わらず私を見ることなく、前だけを見ている。
だけど、絡める指は変わらない。
そのうちそっと包み込むように私の手に彼の手が重なり、優しく握りしめられた。
最後に触れた時と同じく、彼の手は大きくて温かかった。
…………私たち、手を繋いでる。
満員のエレベーターの中で。
誰にも見られないこの状況で。
これは、なんのサイン?
ポーン、と音がして顔を上げた。
するすると神宮寺くんの右手が離れていく。
「降ります」と言いながらエレベーターを降りていってしまった。もちろん柏木さんも一緒に。
神宮寺くんは結局、一度も私を見ることなくいなくなった。