マイノリティーな彼との恋愛法
上昇するエレベーターの機内でボーッとしていたら、いつの間にか自分のオフィスの階に到着していたらしい。
この時だいぶ空いたエレベーターで、風花ちゃんが「春野さんっ」と無理やり手を引いてくれなかったら、たぶん私は完全に乗り過ごしていただろう。
何やってるんですか、と風花ちゃんは腕を組んで口を尖らせた。
「食後で眠くなったんですか?それとも柏木さんに会えたから夢現?午後は激務だって言ってたじゃないですか〜、頑張らないと!」
「………………そうね」
「…………春野さん?」
「…………なに?」
「大丈夫ですか?」
私よりも背の低い彼女が、のぞき込むようにしてまじまじと私の顔を眺めている。
「顔、真っ赤っか」
「う、うそっ」
そんなに赤くなってるわけ!?
焦って自分の頬に手を当てた。
だけど全身が熱くなっていて、もはや顔が赤いのかどうかも分からない。
ヤツは私の体温を手のひらひとつで上昇させたらしい。
だって、だって、だって。
あんなことされたら、誰だってドキドキする。
あっちは気の迷いかもしれないけど、そんなの迷惑極まりない。
「か、風邪でも引いたのかなぁ〜」
と、しどろもどろになりながらフラフラと廊下を歩き出す。
後ろから追いかけてきた風花ちゃんが心配そうな表情を浮かべていたけれど、私にはそれどころではなかった。
神宮寺っ、どうしてくれる!
午後の仕事に集中できる気がしない!
握られた左手が熱くて、右手でぎゅっと握り直した。