マイノリティーな彼との恋愛法
「富永さん、請求書の作成は終わってる?明日までに郵送だから早めにね。最終チェックは私がやるから、明日の10時までに持ってきて」
「はーい」
「春日さんは藤原さんと分担して入居者さんの登録と解約の手続きをお願い。ダブルチェックした後、お互いに入力したのをさらに確認し合って。今日中に終わらせてね」
「は、はいっ」
「で、風花ちゃん。あなたはさっき電話で問い合わせがあった太白区のアパートの窓ガラスの件、早急に最寄りの支店に連絡して確認に出向くように手配をしてもらえる?」
「はいっ、分かりましたぁ」
あのエレベーターの一件があってから、それはそれはもう鬼のように仕事に励んだ。
自分から「次は何をしたらいいですか?」と聞いてこない若い女子社員には、こっちから仕事をガンガン振る。終わってなくても振る。
そうしないと年末のこの時期の仕事が片付かない。
…………ううん、違う。
本当はそうじゃなくて、仕事に集中していないとあの「手繋ぎ事件」が頭から離れなくて辛いので、仕事中は考えないようにしている。
後輩たちに仕事を振った後は、溜まりつつある書類の山に目を通して仁科課長へ届けたり、オーナーさんへの送金を処理したり、忙しなく働いていた。
それでもチラつく神宮寺の顔。
しかもほぼマスクで覆われたヤツの無気力な目。
最後に見たのがそんなんだったから、余計に腹立たしい!
ここ1週間ほど、悶々としながら過ごしてきた。
仕事中は集中して仕事に励んでいるためどうにかこの気持ちはごまかせているけれど、アパートでひとり過ごしている時なんて最悪だ。
大好きな海外ドラマにも身が入らず、せっかくレンタルしたDVDを中身も開けずに返却したりした。
手を繋ぐなんて、あれっぽっちの出来事で……と思われそうだが、なにしろ彼氏いない歴が長すぎて男性と手を繋ぐのも数年ぶりだったのだ。
それを、「興味ありませんよ」「どうでもいいですよ」って顔をしながらいきなり手を繋がれてごらんなさい!
眠りにつくのもひと苦労だ。