マイノリティーな彼との恋愛法
適当に入ったお店で、カシミヤがブレンドされているという黒の無地のマフラーを手に取る。
……やっぱり無難に黒だよね。
スーツに合わせるとなると、下手に色が入っていない方がいいに決まっている。
神宮寺くんの言動や普段の格好(スーツと作業着しか知らないが)を考えると、ファッションに気を遣う人だとは思いにくい。
まさかのアジアンテイストなファッションとか、ハイブランドのファッションに身を包んでたりしたら笑っちゃいそう。
ひとりでニヤニヤしていると、若い男性店員に話しかけられた。
「お決まりですか?」
「あっ……はい」
無意識にニヤついていたので、慌てて顔を元に戻してからマフラーを彼に渡した。
プレゼント用でお願いします、とつけ加えながら。
10分後、手渡されたショップの袋には『MerryX'mas!』の文字。
いやいや、例え世間はクリスマスムード一色だとしても、私が買ったマフラーはクリスマスプレゼントじゃないんですけど!
この時期には限定ラッピングというものをやっているのか、確かにレジの横には「25日までクリスマス仕様ラッピング承り中!」と書いてある。
承るどころか依頼してないぞ。
しかしながら文句など言えるわけもなく、「ありがとうございます〜」と作り笑いを浮かべて仕方なく立ち去った。
クリスマスラッピングということは、クリスマス期間内に渡さなきゃいけない感をひしひしと感じる。
会うだけでも簡単ではない私たちの関係では到底無理に思えた。
メガネの弁償も終わったし、『酔いどれ都』で張ってでもいない限り会うことなどない。
つまり、わざわざ時間を作ってまで会う理由が無いのだ。
やっぱり通常ラッピングに変えてもらうべきだった、と反省しながらも、紙袋はそのまま抱えて賑やかな街を歩いた。