マイノリティーな彼との恋愛法
柏木さんオススメの串焼き屋がどんなお店なのか想像も出来なかったけれど、確かに古いビルに入ったなかなか味のあるお店だった。
威勢のいい店主らしきおじさんが炭火で焼いていて、お世辞にも店内は掃除が行き届いているとは言えない。
彼が最初に言っていた通り、ちょっとだけ汚い。
汚いけど━━━━━。
「うわっ!美味しい!」
飛び退くほど串焼きは美味しかった。
思わず声を上げてしまい、店主のおじさんが「元気いいな、姉ちゃん!」と満足そうな笑顔。
あなたほど元気ではありませけど、と思いながらニコッと笑って見せた。
そして満足げな人がもう一人。
向かい合わせの席で、柏木さんが向こう側から笑った。
「でしょ?美味しいでしょ?お店と味がミスマッチなんですよね、ここ」
「お見それしました。美味しくてビックリです」
かなり大きめの具が玉ねぎ、豚肉、ピーマン、豚肉、玉ねぎの順に串に刺さっていて、オリジナルのタレと香ばしい炭火が相まって非常にジューシー。かつ素材の風味も損なわず、しっかり食感もある。
「あつっ、でも食べちゃう」
ハフハフしながら幸せな気分になっていると、柏木さんはウンウンとうなずいた。
「そうそう、その顔が見たかったです。美味しそうに食べてる顔。綺麗です、本当に」
微妙に変態っぽい発言をしていることには彼は気づいてなさそう。そこは笑顔でスルーしておくか。
両頬にパンパンに詰めてもぐもぐ咀嚼していると、まじまじと私の顔を見ていた柏木さんがふと思い出したように手を叩いた。
「なんだか本当にハムスターに見えてきましたよ」
「あー……やっぱりそう見えますか……」
「なんで落ち込むんですか?褒めてるのに」
「ハムスターって褒めてるんですか?」
「当たり前じゃないですか」
え、貶し文句じゃなくて?褒め言葉なの?
目を点にしていると、柏木さんも串焼きを口に運びながら首をかしげた。
「可愛いって意味だと思いますけど?」
「か、か、可愛いっ……!?」
食べていた豚肉が喉につかえる。
一生懸命飲み込もうとしているうちに、テーブルの向こうの彼が少しだけからかうような口調へ変わった。
「そんなに動揺してるのを見ると、ハムスターって誰かに言われたんですね?元彼とか?」
「いえ、違います。友達……かな」
「なんだ、そうなんですか」
言えない。
神宮寺くんに言われたなんて言えない。