マイノリティーな彼との恋愛法
「そういえば、春野さんの会社では年末年始はお休みはもらえるんですか?」
ジョッキを傾けてビールを飲んだ柏木さんは、こうやってさりげなく話題を提供してくれる。
これは初めて会った時もそうだった。
話が途切れないようにしてくれているのだ。
その配慮は神宮寺くんには皆無だということを思い出す。
「29日の午後からお休みです。毎年29日の午前中にオフィスの大掃除をするんです。とは言っても、普段からお掃除の業者さんが入っているので大して汚れてないんですけどね」
「じゃあ、年末はそのまま帰省ですか?」
「そうですね。……って言っても地下鉄とバス乗り継いで1時間しないくらいで着いちゃいますけど」
パリパリの鶏皮の食感を楽しみつつ答え、冷たいビールを飲む。素晴らしい組み合わせ!
次は焼酎にしちゃおうかな。
クリスマスイブだというのに色気も何もないことを考えている私に、柏木さんはサラリとつぶやいた。
「そっかー。……俺は、年末は東京でお見合いなんです」
「お見合いですかぁ、そうなんですねー。わざわざ東京まで行かなきゃなんて大変……」
ふむふむとうなずきかけて、ハタと動きを止める。
今、この人なんて言った?
「お、お見合い!?」
「あ、良かった。スルーされたのかと思っちゃいました」
「いやいやいや!スルーするわけないじゃないですか!」
しっかり握っていたほぼ空のジョッキをテーブルに置いて、ひとまず心を落ち着ける。
お見合いをするって普通に言ってたけど、それじゃあどうして私を誘ったりなんかしたの?
もしや、セレブによる庶民のお味見的なこと!?
目を丸くして驚いていたら、どうやら私の気持ちを先読みしてくれたらしい柏木さんが、目を伏せてしゃべり出した。
「まあ、なんていうか、お見合いという名の政略結婚ってやつです。会社にとって都合のいい良家のお嬢さんと結婚させて、互いの利益に繋げたいという親同士の策略で。それで、どうしてもそれが嫌なら年末までに彼女を連れてきなさいと言われまして」
政略結婚って、実際あるんだ……。
ドラマとか漫画の世界の話だと思っていた。
うちの両親なんて「誰でもいいから早く結婚してよ〜」とお茶をすすりながらのほほんとしているぐらいで、お見合い相手なんて見つけてくるわけもない。