マイノリティーな彼との恋愛法
私がぼんやりと、実家のリビングのこたつで寝そべる父親とみかんを両手で揉んでいる母親の姿を思い浮かべているうちに、柏木さんは話を続けた。
「たぶんその話が無かったら、俺はきっと春野さんを紹介してくれなんて焦って秀行に頼んでなかったと思うんです」
「…………はぁ」
「単刀直入に言うと、出来ることなら早々にあなたとお付き合いして、年末には実家に連れていきたいんですが、どうでしょう?」
「━━━━━へっ!?」
どこか他人事のように聞いていた話だったのに、いきなり目の前にバーンと突きつけられた自分への選択肢に戸惑う。
お付き合い?実家に連れていく?
誰が誰を?柏木さんが私を?
おーーーい、ちょっと待ってくれー!
「いやっ……あの、ちょっと」
なんとか捻り出した言葉は、完全に声が上ずってしどろもどろ。
なんなんだ、この急すぎる展開は!
挙動不審に陥った私に、柏木さんがさらに畳みかけてくる。
「分かってます、展開が早いのは。もっと順序よく進めたかったんですが。ですが他にいい人もいないし、普段の自分の生活を思い返してみて、唯一気になっていたのがあなたでした。常識もあるし、所作も綺麗だし、容姿もうちの父親の好みです。きっと気に入ってもらえると思います。なので、ぜひ俺とお付き合いしていただけませんか?結婚後の生活は絶対保証します!」
最初からこのセリフを考えてきたみたいに、スラスラとよくもまあ噛むことなく言い切ったな、と感心してしまった。
だけど、よくよく冷静に解析するとちょこちょこおかしい部分があることに気がつく。
話の概要は掴めた。
柏木さんが政略結婚を嫌がっているのも分かった。同じ立場だったら私だって嫌だったと思う。時代遅れじゃん、って思ってたはず。
問題なのは、「他にいい人もいないし」と「容姿もうちの父親の好みです」っていうところ。
なんだろう、とりあえず春野さんにしておくか的なニオイをプンプン感じる。
いい人がいなかったから、まぁこいつにしておくか〜みたいな。
ついでに父親の好みだってつけ加えられても、こっちはこれっぽっちも嬉しくないんですけど!!
結婚するのはあなたでしょ?
私を見つめる視線はとっても熱く、好いてくれているのは感じる。
しかしながら、拭い切れない危険信号。