マイノリティーな彼との恋愛法
手っ取り早く恋人を作りたいという気持ちがどこかにあるような気がしてならない。
確かに柏木さんは見た目も本当にかっこいいし、誰もが振り返るくらいのイケメンだ。
しかも一級建築士の資格もあって、実家は大手ハウスメーカーで、社長の道を約束された御曹司。
傍から聞いたらこんないい人いない、ときっと思う。
━━━━━それでも私は、ダメなんだ。
「あなたじゃなきゃ嫌だ」って言ってくれるような人じゃないと、ダメ。
「…………柏木さんは、やっぱり小さい頃から建築関係のお仕事に興味があって建築士になられたんですか?」
このタイミングでそれを聞くかというような質問を、彼にしてみた。
父親がハウスメーカーの社長ならば幼少期から建築系のことには触れてきたはずだし、一級建築士の資格を取って働いているくらいだから後継者の自覚を持って仕事をしているのだろうと思ったからだ。
ところが、予想外の返答が返ってきた。
「本当のところ全然興味が持てなかったんです。ずっと服飾関係の仕事につきたいと思って、建築のことはあまり考えてませんでした」
ニコッと微笑みかけられて、曖昧な笑みを返す。
すっごく爽やかな微笑みなのに、なんだかとてもモヤッとした。
「でも、俺ひとりっ子だし。親父の後を継がなきゃいけないのは分かっていたので、仕方なく……って感じですね」
仕方なく勉強して一級建築士になるって、かなりすごいと思うんですけど。
すんなり言っちゃうあたり、きっと頭がいいんだろうなあ。
「まあ、もうこの仕事してけっこう経つので腹は括ってますけど。時々仕事中に、つまんないなぁとか考えちゃいます。建築士の仕事も嫌いじゃないんですけど、好きでもないんですよね」
きっとこの人は、なんでもソツなくこなせちゃうタイプの人間なのだ。興味があろうと無かろうと、人並み以上に出来てしまう天才型の。
神宮寺くんとは、柏木さんは全然違う。
『最終的には完成した建造物を見て、無事に出来上がってよかったなあと安心するんです』
いつもの無愛想な顔から、突然人懐っこい笑顔になってペラペラ話す神宮寺くん。
彼の仕事への溢れる愛は、笑っちゃうくらい熱い。地味だけど。その地味さがいい。
私だって一応29年生きてきたので、人を見る目くらいはある。人というか、男を見る目。
お金とセレブな将来をとるか、叶うかも分からない男への片想いをとるか。
迷うことなんて無かった。