マイノリティーな彼との恋愛法
「ごめんなさい」
精一杯の気持ちを伝えるため、頭を下げた。周りの目もあるので座ったままで、不自然に見えない程度に。
「私は、柏木さんとはお付き合いできません」
自分でも驚くくらい、声が凛としていて。
もう誰に何を言われても変え難い気持ちが、ここにあるんだってことをそれが証明していた。
ここで、ゆっくりと顔を上げる。
柏木さんもなんとなく感じたのか、やや落ち込んだ様子で静かに聞き返してきた。
「それは……何か理由でもあるのかな?春野さんって彼氏はいないはずでしたよね?」
「はい、彼氏はいないです。でも……」
「でも?」
「好きな人がいます」
否定してフタをした気持ちは最終的に隠し切れなかった。
いったい神宮寺くんのどこをどう好きなのか口では説明出来ないけれど、とにかく彼のことを好きだということは間違いない。
それは、ムカつきながらも気になってしまうこととか、ヤツの姿を見た時に鳴り出す胸の鼓動とか、ふとした時にヤツのことを考えてしまうのとか、色々なところで実感に繋がっていた。
「なんでその人のことが好きなのか、自分でもよく分かりません。でも、不思議なんですけど、『また会いたい』って思うんです。たぶん私、その人が貧乏だろうがオタクだろうが変態だろうが、この気持ちは変わらないと思います」
「俺が入る余地は無いってこと?」
「……ごめんなさい」
もう一度謝ると、柏木さんは自分を納得させるためなのか一息ついた。
「分かりました。じゃあ、あとひとつだけ」
「なんですか?」
「その好きな人って、どんな人なの?」
彼の問いかけに、なんと答えるべきか躊躇った。
だって神宮寺くんは、一言や二言では表現しがたい難しい男。ちょっと人とは違っていて、言うなれば変わり者?
冷たいように見せかけて、「しょうがない人だな」と呆れながらもちゃんと付き合ってくれる。
あの常套句が、もうクセになってる。
たぶん100人の女性がいたら、99人は柏木さんを選ぶだろう。
それでも残りの1人が神宮寺くんを選ぶとして、その1人は私でありたい。
不思議そうにこちらを見ている彼に、私は真っ直ぐ視線を返しながら笑いかけた。
「私の好きな人は、マイノリティーな人です」