マイノリティーな彼との恋愛法


スマホで神宮寺くんの番号を引き出し、発信ボタンを押す。

ドックン!と続けざまに鳴り響く心臓の音がうるさくて、落ち着け落ち着けと念仏のように唱えた。


電話に出たら、今どこにいるか確認して、それでヤツの好きな「酔いどれ都」にでも誘って、今から会う約束を取りつける。

面倒くさいと渋られても大丈夫。
クリスマスという名前のついた日に渡さないとカッコがつかない袋を持っているのだと訴えれば、ヤツのことだから「しょうがない人だな」なんて言って来てくれるはず!


すごいな。出会った時は考えられなかったけど、電話しようとするだけでこんなにドキドキさせられることになるなんて信じられない。

さっき柏木さんにも言ったけれど『また会いたい』って気持ちが、どんなに大切なことか思い知らされる。

そうか、メガネの弁償が終わって、もう会えなくなるって思った時に気づいたんだった。彼への気持ちに。


高揚したままで電話のコール音を聞いていると、途切れて向こうから人の気配を感じた。

━━━━━あ、出てくれた。


「もしもし、神宮寺くん?」


第一声を私が発したら、予想していなかった声がスマホから聞こえてきた。


『あー、ヤバッ。電話間違って出ちゃった。渉、誰かから電話来てるよー』


お、お、女の声………………。

一瞬にして目の前が真っ暗になった。


ザワつく構内で1人だけすっぽりと暗闇に包まれていると、少し遠くから神宮寺くんの声。


『勝手に出るなよ』

『ゲームしてたら電話来たんだもん』

『だから、人のスマホで勝手にゲームするなって言ってるでしょ。返してよ』


恋人感満載の会話を電話越しに聞かされて、私の高揚していた気持ちは一気に奈落の底へ突き落とされた。

やがて、おそらく神宮寺くんがスマホを奪い返したのだろう、馴染みのある低い声が電話口に出た。


『あれ?……もしかして春野さん?』


ヤツが電話に出た瞬間、気がついたら私は電源ごと電話を切っていた。



そういえば、神宮寺くんの口から恋人の有無は聞いた覚えがない。
恋愛が面倒くさいとは言ってたけど、現在お付き合いしている彼女は一応いたのかも。
だって親密さプンプンの会話してたし!


スマホの電源は切ったまま、トボトボと家路についた。


なんてこった。
勇気を出して一歩踏み出したらこれだもの。
欲を出して『会いたい』なんて思うんじゃなかった。


帰りの電車の車内で泣いたらアカンと気合いを入れて我慢し、アパートに着いて、玄関のドアを閉めた瞬間にポロッと涙が出た。

そんな号泣とかボロボロ泣くとか、そこまでのレベルではなかったけれど。ポロッとこぼれて、おめでたい自分に笑っちゃうくらいの涙。

ちょっとは期待してたんだなあ、私。
だから少しショックなだけ。
少し泣いたら立ち直れる。


少し泣いたら、きっと。









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