マイノリティーな彼との恋愛法
8 マイノリティーな彼との微妙な距離。
「あの〜、朝から春野さんの雰囲気がすっっごい怖いっていうか殺伐としてるっていうか殺し屋みたいっていうか。だから聞こうか迷ってたんですけどー……。………………えーと、イブの夜、もしかして柏木さんとうまくいかなかったんですかぁ?」
今日は珍しく私はコンビニ弁当を持参したので、風花ちゃんもビルに併設されているコンビニでサンドイッチを買ってきた。
それで、2人でミーティングルームでお昼休憩をとっているのだ。
いいのよ他のみんなと食べてきても、と言ったのに、風花ちゃんは健気に私についてきた。
もう私たちはいつの間にかニコイチになってしまったらしい、彼女の中で。
いやいや、というよりもきっと私のおかしな様子を見て、たぶん何があったのか聞き出したくてついてきたんだな。
のり弁の白身魚のフライをくわえて、ウズウズしている風花ちゃんに「違うわよ」とモゴモゴ答えた。
「別にいつもと一緒だけど。気のせいじゃない?」
「アサシン・ひばりって感じですよ?」
「アサシン……」
なんちゅー表現をするのだ、イマドキの若い人は。そんなタイトルの映画があっても誰も来ないに違いない。
風花ちゃんは諦めるわけもなく、サンドイッチはほとんど手をつけないままで距離を詰めてくる。
「じゃあ柏木さんとアッツ〜い夜は過ごせたんですね?」
「過ごすも何も……」
答えかけてハッと息を飲む。
そういえばここは会社のミーティングルーム。
テーパードで仕切っただけの簡易的なミーティングルームなので、話はたいてい隣に丸聞こえなのだ。
キョロキョロと辺りをうかがうも、特に気配はない。
でもいつもは若い後輩たちはミーティングルームで昼食をとるはずだから、近くにいるような気もしなくもないが……。
「春野さん、イケメン御曹司とどうなったのか教えて下さい!今すぐに!」
「ちょっとちょっと!声小さくしてっ」
シーッと風花ちゃんを黙らせて、ふぅーっとため息をついた。
「期待させちゃって申し訳ないんだけど、柏木さんとは何も無かったの。というか、好意はありがたかったけどお断りしたの」
「う、嘘でしょ〜!!信じらんなーい!!」
両手を口に当てておきながら、とんでもない騒音に匹敵するような大声を出した風花ちゃんは、しばらく唖然とした表情で私をまじまじと見ていた。
まあ、予想通りのリアクションと言えばそうなのかも。