マイノリティーな彼との恋愛法
「へへ、これ見て下さいっ」
目にも止まらぬ早さでスマホを操作した風花ちゃんに画面を向けられ、どれどれ、と顔を寄せる。
そこには、風花ちゃんと秀行さんの幸せそうな笑顔。
……そして、彼の首にはぐちゃぐちゃの毛糸の塊。
━━━━━愛のパワーで毛糸の塊はマフラーへと昇華したんだ!!
優しそうだもんな、秀行さん。
32歳って言ってたってけ、大人の対応したんだろうな。
きっと手編みのマフラーとしてただの毛糸の塊をプレゼントされるとは思ってなかっただろうに。
神宮寺くんなら
「は?これのどこがマフラー?」
と、冷たく突き返されそうな気もする。
マフラーか……。
そうだ、忘れた振りをしていたけれど。
私だってヤツにマフラーをプレゼントしようと思って準備してたじゃない。
渡せなかった、黒の手触りのいいマフラー。
「春野さん?」
私が何も言わないからか、心配そうに風花ちゃんが顔をのぞき込んでくる。
慌てて笑顔を作って、「いいなぁ、おめでとう!」と彼女を祝福した。
すると、何故か風花ちゃんの表情が少しだけ暗くなった。
「本当は春野さんが柏木さんと上手くいったと思って、お祝いを用意してたんです……」
「お、お祝い?」
「まさか柏木さんを断るなんて。てゆーか他に好きな人がいたなんて。しかも玉砕したなんて。…………せっかく買ったんで、励ましのアイテムとして受け取って下さいっ」
ぐいっとなにやら小さな袋を渡された。
淡いピンクの包みに、鮮やかなイエローのリボン。派手派手のラッピング。
「気を遣わせちゃったね、ごめん」と謝りつつ、がさごそとリボンを外して中身を見て驚愕した。
「こっ……これは……!」
ポロリと手から落ちる、繊細な造りのレース仕立ての水色のそれは、まさかの。
「持ってないって言ってたんで、買っちゃいました。エロい下着!」
Vサインして無邪気に笑う風花ちゃんに、もはや何も言い返す気にならなかった。
私が一度もつけたことのない、Tバックのショーツ。
これをプレゼントにするとは、さすが彼女だと改めてハートの強さを実感した。
「あ……ありがとう……」
かろうじてお礼を言うと、
「いつかこれ着て、誰かを悩殺して下さいねっ」
という、これまた無邪気な返事。
着る場面どころか、見せる相手もいないんですけどーーー。
私の手の中で、その下着はやけに水色がツヤツヤして見えてしまったのだった。