マイノリティーな彼との恋愛法


巡り合わせっていうのかな。

会いたい時には会えなくて、会いたくない時に何故か会ってしまう。
それは運命なんていう陳腐な言葉では一括りにできない、ご先祖様あたりが私に与えた罰なのかも。

なんの罰か知らないけど。
言ってみたかっただけ。


だって、残業帰りのエレベーターで、神宮寺くんに遭遇したからだ。


1人でぼんやりしていたら、ポーンといういつもの電子音がして下降していたエレベーターが停まる。
そこへ、相変わらず無気力な目をしたでっかい男が乗り込んできたのだ。


「あ。春野さん」


彼は確かに私の名前を呼んだ。
それだけで、ちょっと嬉しくなる乙女な私。
やめろ、乙女ひばりめ!消え去れ!


「あー、お疲れ〜」


全身の細胞を全力でコントロールし、平常心を保ちつつ目を合わせないようにして挨拶をする。
どうせヤツだって私のことなど見ていない。目が合うわけなんかないのだけれど。

動き出したエレベーターの機内に表示される階数のパネルを見つめていると、神宮寺くんに声をかけられた。


「ずいぶん帰り遅いんですね」

「年末だからね」

「最近はいつもこのくらいなんですか」

「年末だからね」

「…………なんか避けてません?」

「…………………………気のせいじゃない?」


この、彼女持ちめ!
好きな相手に彼女がいたら避けまくって忘れるしか無いだろうが!

と、騒ぎたい気持ちを抑えてニコッと微笑む。
ダテに29年生きてませんから、愛想笑いくらい簡単に出来るのです。


それからは無言でエレベーターが下降する。
くそ、こういう時に限って誰も他に乗ってこないんだから!


ポーン、と音が鳴り、1階に到着。
そそくさとエレベーターを降りると、足早に歩いて神宮寺くんから離れようとした。

……なのに、ヤツはコートのポケットに手を突っ込んでサクサクと私の後ろをついてくる!


「……なんでついてくるの」

「駅に向かって歩いてるだけですけど」

「あらそう。じゃあ先に行ってくれない?ほら、足の長さが違うからそっちの方が早く歩けるでしょ?」

「この間、土曜日の夜。俺に電話よこしましたよね」


私の話などヤツは一切聞いておらず、先に行けと言ったのにも関わらず歩調を合わせてきた。

うぅ、今は一緒にいたくないのに〜!
どうして男ってそういう乙女心を分かってくれないの!


「土曜日の夜……はて。スマホの操作間違えたのかも。覚えてないなあ」


と、苦し紛れのその場しのぎの言い訳を口にして、うーんと考え込む仕草をつけ加えておいた。

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