マイノリティーな彼との恋愛法


「あんなに結婚したいって言ってたじゃないですか。結婚した周りの友達が妬ましいとまで言ってたくせに」


なんで神宮寺くんが私の結婚願望に口出ししてくるのか、さっぱり分からなかったけど。
とにかく納得がいかないらしく、やけに突っかかってきた。


「せっかくいい条件の人が見つかったのに。後悔しませんか?」

「しないわよ。ほっといて」

「ふーん。結婚したいって口だけだったんですね」

「違うわよ!」


なんなんだ神宮寺!!
私の導火線に火をつけて、後悔するのはあんただぞ!!

クリスマスの装飾がすっかり取り払われた街の中で、私は隣を歩く超無神経男に半分怒鳴るぐらいの勢いで文句を言った。


「誰でもいいから結婚したいなんて思ってないの!結婚するなら好きな人としたいの!それって普通の感情じゃない!?」

「……まあ普通、ですね」

「そうでしょ!?仕方ないじゃない、柏木さんのことは好きになれそうになかったんだもの!彼だってどうしても私じゃないといけないってわけでもなさそうだったし。相思相愛で結婚したいのよ、私は……」


ゼンマイ仕掛けのオモチャの車みたいに、勢いが良かったのは最初だけ。
話しているうちに怒りも声も尻すぼみになり、最後の方はモゴモゴと口ごもりながらだった。

何も返してこないので変に思って振り返ると、神宮寺くんはピタリと立ち止まり、苦しむように唸って考えていた。


「じゃあ、好きならば結婚したいという気持ちに直結するということですか?」

「そうよ。考えてもみなさいよ。いったい何歳だと思ってるのよ」

「26歳」

「それはあんたの歳でしょ!?」


いちいち突っ込むのも面倒だけど、一応ここはしっかり返しておかないと会話にならない。


「私の話をしてるの!もう来年30歳になるの!分かる?恋愛と結婚を結びつけないとヤバい時期に来てるの!私だって出来ることなら早めに子どもだって欲しいし、そういうのを踏まえるとお遊びで恋愛なんかしてられる余裕はないのよ!」


なんでイチから説明してるのか、言いながらワケが分からなくなってきた。
そもそも微妙な乙女心も分からない男が、女性のそのへんの切実な思いを汲み取るわけなんてないのだ。


「そりゃあ、恋愛が面倒くさいって言い切るような結婚願望ゼロの神宮寺くんには、全く理解できないような話でしょうよ」


理解できるもんか、恋愛するなら測量してデータをパソコンに打ち込んでいる方が何倍もいいとしれっと言った男なのだから。

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