マイノリティーな彼との恋愛法


小上がりになっている座敷の部屋の前まで案内してもらい、店員にお礼を伝えると「ごゆっくり〜」といなくなった。

ピッタリ閉まった障子張りの引き戸の向こうからは、盛り上がっている男女の会話が聞こえてくる。

この中に遅れて登場するのはけっこうな勇気がいるなぁと思いながら、襖をノックしようとした。


そこで、会社で聞くよりもやたらと甘ったるいしゃべり方の風花ちゃんの声が耳に入ってきた。


「てゆーか、春野さん遅〜い」

「あぁ、残業してるっていう子?連絡は来てないの?」

「そもそも連絡先知らないし〜」


ノックしかけた私の左手が止まる。
どんな男と会話してるのか、ペッタリとした湿気を含んだような雰囲気を感じた。


「言っておきますけど、春野さんは私たちの中で唯一のアラサーですからね〜。丁重に扱ってあげてくださいね?」

「美人なの?」

「べっつに〜?まぁ、あの歳にしては綺麗な方ってくらいじゃないですかね。お局っぽくてめんどくさいんですけど〜……って、あ!これは本人にはオフレコで!」

「どんな恐ろしい女の子が来るか楽しみだよー」


ゾワッ。
全身に鳥肌が立った。

それに合わせてキャハハハと他の後輩たちも笑っている。
これは今私がノコノコ混ざり込んだら完全に笑いものじゃないの!


「そっちこそもう一人遅れてる人はどうなったんですかぁ?イケメンじゃないと許しませんよ?」

「さっき会社出たって連絡来たんだけどなぁ。…………そんなに期待しないでね。なんていうかそうだな…、あまり目立つ奴じゃないからさ」

「イケメン以外立ち入り禁止です〜!」

「風花ちゃんは手厳しいなあ」


このデレッとした会話の端々から察するに、私以外にも男性陣でも1人遅れている人がいるらしいことは分かった。

イケメンイケメンってくだらねー!

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