マイノリティーな彼との恋愛法
それなのにどうして神宮寺くんは何かを飲み込むように懸命に理解しようとしているのか。
ブツブツとつぶやいて、時折空を見上げたりして。
なんなの、夜空に恋愛の公式でも載ってるの?
ヤツが恋愛について考えるなんて、今夜は吹雪じゃなくて槍が降ったりして……。
いや、今重要なことはそれじゃなかった。
大事なことを思い出した。
「きっと待ってると思うよ、神宮寺くんの彼女。プロポーズしてくれるの、健気に待ってると思う」
そうだ、こいつには恋人がいたんじゃないか!
親密度を匂わせる会話を電話越しにガッツリ披露してきた、あの彼女が。
またびゅうっと風が吹いて、一気に体に寒気が走る。
私はスカートを押さえ、神宮寺くんも同時にスカスカの首元にコートの襟を手繰り寄せて渋い顔をした。
「は?彼女?」
寒いのか、それとも私の発言に不満を持ったのか、渋い顔の原因はどちらかは分からない。
私にはどっちだっていい。
「恋愛なんか面倒くさいって豪語してたくせに、結局彼女持ちだったっていうオチでしょ!」
「……あのー、話が見えませんが」
「うっさい!24日の夜、電話に彼女が出たじゃない!」
「あー。あれは」
何かを言いかけたヤツの顔面に思いっきり紙袋をぶつけた。
ブッ!という神宮寺くんのうめき声が聞こえて、紙袋はベタッと地面に落ちる。
過ぎ去ったはずのクリスマス仕様のラッピング。紙袋には『MerryX'mas!』の文字が印字されていて、今見ると滑稽だ。
バッグに詰め込んできたから、紙袋はボロボロ。
まるで私みたい。
「いってぇ。……なんですか、これ」
メガネがズレて、鼻先が少し赤くなった彼の姿は漫画に出てくる登場人物みたいで笑えた。
紙袋を拾い上げた彼に、何回言っても買わないからよ、とつぶやいた。
「いつ見ても寒そうだから選んだの。それだけ。でももういい。捨てて。駅のゴミ箱にでも捨てて。中身も開けなくていい。もう無意味だから」
「━━━━━え、ちょっと」
一方的にまくし立てられて戸惑っている神宮寺くんを置いて、絶妙なタイミングで現れたタクシーを数秒で拾った私はそれに身を滑らせた。
ヤツと一緒に帰るのとか無理だから!
「早く!とりあえず出してください!早く!」
刑事ドラマさながらにタクシーの運転手を急かし、急発進で道路に飛び出した。
後ろを見てみたものの、神宮寺くんはポカンと口を開けたままこちらを見ているだけだった。
渡すくらいなら自分で捨ててもよかったのだ、あのプレゼントは。
それでも本人に渡してしまったのは、精一杯の抵抗だったのかも。
くるりと体を後部座席のシートに戻し、ため息をついた。
そして、神宮寺くんにもらったウミガメのキーホルダーをそっと外したのだった。