マイノリティーな彼との恋愛法
大晦日とお正月三が日をしっかり実家で過ごしたあとは、仕事も始まるのでアパートに帰った。
年末年始で甘やかしまくった自分の体にムチを打つこともなく、ダラけた状態で朝を迎え、またいつもの日常が戻ってきた。
満員の地下鉄に乗り込んで、ぎゅうぎゅうにキツい車内で踏ん張って会社へ向かう。
当たり前の毎日を、またこれから送るのだ。
年末年始はずっとため息ばかりついて過ごしていたけれど、職場であるオフィスビルが見えてきたあたりで後ろから「春野さーん!」という元気な声が聞こえてきた。
この声は、風花ちゃんだ。
「おはようございますっ」
「おはよ〜。明けましておめでとう」
「あけおめでーす」
もう彼女の言葉遣いには何も突っ込まない。彼女と付き合っていくうちに慣れてしまったのだ。
お客様相手にはまともな口を聞いているので、切り替えてるならヨシとしようと目をつぶっている。
むしろ、ことよろと続けなかっただけでも評価してあげたくなった。
「風花ちゃん。仕事、戻そっか」
「え?」
私が不意に声をかけたので、隣を歩いている風花ちゃんがビックリしたように目を丸くした。
「だって先月、けっこう頑張ってたじゃない。イヤイヤながらも残業もしてたし、私が手伝ってた分、そろそろ戻してもいいかなーって。もちろんいっぱいいっぱいにならないようにサポートするから。どう?」
「で、でもまたミス連発するかもしれませんよ?」
「たぶん大丈夫。今の風花ちゃんならね。ダブルチェックじゃなくて、トリプルチェックすればミスは格段に減るよ」
ね、と微笑みかけると、彼女は少しばかり不安は見せたもののコクンとうなずいた。頑張りますという言葉を添えて。
「春野さん…………アネゴって呼んでもいいですか?」
「絶っっ対やめて」
朝から2人で笑い合っていたら、ちょうどオフィスビルから作業着姿の男性が3人で歩いてくるのが見えた。
それは遠くからでも誰なのかがハッキリ分かってしまい、グワッと心臓を鷲掴みにされたみたいに胸が苦しくなった。