マイノリティーな彼との恋愛法
「あ。神宮寺さんだ」
風花ちゃんも気がついたようで、私を気遣うようにチラリとうかがってくる。
後輩に気を遣わせて、かっこ悪いなぁと恥ずかしくなった。
神宮寺くんと一緒にいたのは、年配の男性2人。測量士の先輩なのか、事務所の上司なのかそれは分からないけれど、3人とも重そうな荷物を持っている。
たぶんこれから測量に行くのだろう。
「朝早いですね。まだみんなが出勤する前に出かけちゃうんですね」
「そうだね……」
風花ちゃんに相槌を打ってから時計を見ると、まだ朝の8時前。
何時に起きて何時に会社に着いたのかな。
帰りは毎日遅いって言ってたし、ちゃんと聞いてなかったけど朝も早そう。現に今日が早い。
私たちと神宮寺くんたちの距離がどんどん縮まっていく。
そこで初めて気づいた。
「おはようございます」
これといった感情の無い声で神宮寺くんに挨拶された。
「おはよう」と言い返したくても、あまりにも動揺して言葉が出てこなかった。
神宮寺くんたちは立ち止まることなく、さっさと行ってしまった。
「春野さん、大丈夫ですかぁ?」
と、心配そうな風花ちゃんにも、何も返せない。ただウンウンとうなずいて見せることしか出来なかった。
胸がいっぱい。
だって、神宮寺くんがマフラーをしていたから。
私があげた、黒いマフラーを。