マイノリティーな彼との恋愛法


その日の夜のことだった。


少しだけ残業して、今日は海外ドラマのDVDでも借りて帰ろうかと考えながらエレベーターに乗り込んだ。
毎回毎回、エレベーターに乗るたびにほんの淡い期待を抱く。

このエレベーターに神宮寺くんが乗ってこないかな、なんて。


顔を合わせないようにしているくせに、やっぱり会いたいと思うあたりが自分でも諦め切れていないことに気づかされる。

プレゼントしたマフラーを身につけてくれたのは嬉しかった。だけど、それにどんな意味があるのかまでは考えたくなかった。

単純に防寒具のひとつとして大事にもらって使ってるだけという可能性が非常に濃厚で、そこに特別な感情が介入しているとは考えにくい。


『渉、誰かから電話来てるよー』


電話越しに聞こえた女の人の声が忘れられない。
アレが与えてくる精神的ダメージはけっこう強かった。


━━━━━結局、エレベーターには神宮寺くんは乗ってくることはなく。
全然違う階で何人かの男女が乗ってきただけだった。


1階で全員が降り、ロビーを横切ろうとしたところで足を止めた。

風花ちゃんを見つけたからだ。

メイクの濃い受付嬢2人がいるカウンターに、十数人ほどの人が集まってザワザワしている。そこに風花ちゃんもいたから不思議だった。


「お疲れー。風花ちゃん、まだいたんだね」


確か定時で帰ったはずの彼女が、何故ここに?
気軽に声をかけたのに、振り返った風花ちゃんは泣きそうな顔をしていた。


「春野さん!大変なんですっ」

「え?え?なに?」

「神宮寺さんたちが……!」


事態を飲み込めずに目を瞬いていると、人だかりの中から柏木さんと、風花ちゃんの彼氏になった秀行さんが顔を出した。


「あ、春野さんも来たんだね」

「何かあったんですか?」


柏木さんに詰め寄るように尋ねると、眉を寄せて深刻そうな顔で目を伏せた。


「夕方頃には戻るはずだった神宮寺たちが出先から事務所に戻ってこないらしくて。さっき秀行の事務所に連絡があって、山の急斜面で滑って、3人とも怪我してるっていうんです」

「━━━━━えっ!!」


思わぬ事態だった。


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