マイノリティーな彼との恋愛法
「驚いたな、春野さんの好きな人が神宮寺だったとは」
「……すみません」
「また会いたいって思う人は神宮寺なんだね」
「………………はい」
「まさか本当に合コンの日にお持ち帰りされたとか?」
「それはされてませんっ。断言します」
……当然のことながら、病院へ向かう柏木さんの車の中で、彼に質問攻めにあっていた。
私のような庶民には到底手が届くわけない高級車の助手席のシートに身を沈めて、ものすごくいい匂いのする車内で恐縮しまくりだった。
曲がりなりにも一応『振った相手』なのだ、柏木さんは。
庶民に振られてどんな気持ちだったか計り知れないが、それとは別にこうして神宮寺くんとの仲を取り持とうとしてくれるとは。
イケメン御曹司の懐の深さにひれ伏すばかりだ。
「でも、彼女がいるみたいなんです。私はただの片想いなんです。……もうすぐ30だっていうのに虚しい限りなんですけど」
「カノジョ?」
「はい。少し前に電話したら、女の子が出て。だからその時点で玉砕してます」
真っ暗な夜の道路をひた走る車内で、私はこんこんと話した。神宮寺くんとは今、本当は合わせる顔なんてないんだということを。
話を最後まで聞いた柏木さんが、うぅーんと首をかしげる。
その反応が妙で、私まで首をかしげた。
「俺が聞いた話では、恋人はしばらくいないって言ってたような……。なんか恋愛が面倒だとかなんとか話してて、若いのに珍しいなあと思った記憶があるんだけど」
「ここ数ヶ月で出来たんじゃないですか?」
「そうなのかなあ」
実際女の子が電話に出ましたから、と私がキッパリ言うと、柏木さんはそれ以上は返してこなかった。
ただ一言、
「病院で神宮寺の減らず口が聞けたら、元気な証拠ですね」
と笑っていた。
確かに、元気ならば「何しに来たんですか」と平気で口にしそうだ。
こちらの思いなんて気にせずに、ヤツはきっと鼻で笑うくらいの軽い気持ちで言うんだろう。
そうしたら私もいつもみたいに、
「あなたの弱った顔を見に来たのよ!」
なんて可愛くない冗談を返せばいい。
そして静かに帰る。
それだけで、今は十分な気がした。