マイノリティーな彼との恋愛法
減らず口を叩くのか否か。
私は唇をきゅっと結んで、ヤツからの言葉を待った。
いつもはふらりと逸らしてくる視線を、今日の神宮寺くんはそうはせずにしっかりと目を合わせてくれた。
「見ての通りかすり傷です」
「…………そうみたいね」
どんな状況で怪我をしたのかは分からないが、ヤツの私への第一声は怪我の報告。
大した傷は負っていないだけでも安心した。
包帯が巻かれている右手首を見ていたら、また神宮寺くんがしゃべり出した。
「あのー、春野さん」
「ん?」
「実は、謝らないといけないことが」
「……はい?」
今ここで?何を謝る?
「もらったマフラー、今治療してもらってる同僚の止血に使ってしまって。ダメにしてしまいました」
彼の表情はいつもと同じ、特に感情を感じられないもの。だけど、声のトーンが違った。
落胆して、申し訳ないという思いが詰まったような声だった。
初めて聞いた。
淡々としていない、ヤツの声。
「本当にすみません。せっかく選んでくれたのに」
「…………いいのよ。むしろ止血の役に立てたなら良かった。使い捨てマフラーってことでよかったじゃない」
軽い気持ちでそう言ったのだけれど、予想を大きく上回る反応を神宮寺くんが見せた。
明らかに気を立てて、聞いたことのない大きな声を出したのだ。
「使い捨てのつもりでなんか、俺は使ってない!」
━━━━━びっくりした。
たぶん、ここにいる全員が。
私も、柏木さんも、神宮寺くんの隣にいた同僚の男性も。
全員目を丸くして、神宮寺くんを見つめていた。